珈琲の焙煎とは一言で言えば 『火力の魔術で創り出す味の芸術』では
ないかと思っています。
おおよそ自家焙煎店でコーヒーの美味しさを売りにする店であれば、良質の生豆を選別して焙煎し鮮度の新しい豆を販売すると言うのは至極あたりまえの事だと思います。
そして、丁寧な仕事をする店であれば、欠点豆があれば丹念にハンドピックして取り除くという事も至極あたりまえの作業だと思います。
それでもお店によってコーヒーの味が違い、美味しさの程度も違うのはなぜでしょう?
それは焙煎方法が違うからです。
それほどに焙煎と言うのは、コーヒーの味の良し悪しを左右する重要な要素なのです。
同じ銘柄のコーヒーでも、どのような煎り方(火力の与え方)をしたかによって、変幻自在の味に変化します。
焙煎の度数(浅煎・中煎・深煎)を少し変えるだけても味わいが違ってきます。焙煎機のタイプ(直下・熱風・遠赤・炭火etc)の違いによっても、味わいの違う珈琲になります。
例えて言えば何人かの料理人さんが、同じ材料を使って料理を創ったとしても、出来上がりの料理は人によって味付け・盛り付け・料理内容自体が違ってきます。
しかし、その料理人さんの一つのスタイルというのが、全体を通して見るとハッキリと表現されているのではないでしょうか。
ファッションデザイナーの方が、同じ素材を使っても自分独自のスタイルと感性で、全く違うファッションを創り出すのと同じです。
珈琲の焙煎というのも、それと同じなのです。
では、良質の珈琲豆とは、どのように焙煎された豆を言うのでしょうか?それは、豆の芯からしっりと煎られていて、豆の成分(味)がバランスよくシッカリと引き出されている珈琲豆をさします。
ところが、従来一般的に行われてきた焙煎方法では、この豆の芯からしっかり煎りきると言うことが、特に浅煎のマイルドコーヒーではたいへん難しい事と思われてきました。
当店の焙煎スタイルは一言で言えば、浅煎コーヒーの旨み(まったりとしたコク)を味の基本にした焙煎と言えます。
深煎の焙煎においても、味の骨格には浅煎の旨みをしっかりと残しつつ、深煎の焙煎に仕上げています。
コーヒーは深く煎れば煎るほど旨みの成分を無くす(飛ばす)ことになりますが、低温焙煎の深煎は、旨み成分を逃がすことなく、味わい深い味に煎りあがっています。
低温焙煎は、生豆の繊維を低温で十分に解きほぐして、生豆の水分を適度に抜き去る事によって豆を芯から煎りきると言うことを可能にしていますので、高温の焙煎とは全く違う『完熟したまろやかな美味しさ』を造りだします。
低温で焙煎されたコーヒーは、高温で焙煎されたコーヒーよりも糖度が高いので、甘味があり、まろやかな酸味・まろやかな苦味という味わいになります。